学生帽目深くつけて歩(あり)くとき樹木のごとき思ひぞ我ら

杉山隆『人間は秋に生まれた』(1971)

 

 杉山隆は、1952年生まれ、1967年に「コスモス」に入会。1970年、大学受験浪人中に死去(おそらく事故死)。

 『人間は秋に生まれた』は遺稿集。中学時代からの短歌、詩、随想、日記などで構成されている。

 この40年前の歌文集には、青春ただなかの作者の姿をとともに、その時代の実直でひたすらな青年の姿、端正で生硬な表現の姿が見てとれる。

 

 もう見なくなった学生帽。それを目深にかぶる姿は、青年の強い自意識を隠す類型でもある。そこに、衒いのない表現の良さがあるとも言えるだろう。

 樹木とは、個々に強い意思を持ちながらも、無言で他者との交わりを避けて自立する姿の比喩だろうか。

 林立、という言葉もあるとおり、集団の中で没個性と見られがちな学生集団の中での矜持も感じられる。だからこそ、「我」でなく「我ら」なのだろう。

 

 他にも、

・学生服黒く擦れあふ中にして美しき我もことば褪せゆく

・うつ伏せに草に寝たれば草の香は渦巻きて吾を呑み込む如し

・地震(なゐ)太く轟き過ぎし夜半にして青春に入る思ひひそけし

など、「平凡そうに見える言葉にも意外に熱いものがひそんでいた。(宮柊二)」作品を残した作者であった。

 

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