和嶋勝利『天文航法』ながらみ書房,1996年
朝、目覚ましのアラームが鳴る直前に目が覚める。あとどれくらい眠れるだろうかと時刻を確認すれば、起床時間まであと一分しかない…そんな状況だろう。多くの人にとって、経験のある瞬間なのではないだろうか。もしかしたら、これは今朝の私かも知れないとも思えてくる。この布団から出たくない季節ならなおさらだ。
あと五分間長く眠るわけではない。だからといって、一分前に起床して早めに朝の支度をはじめるでもない。きっちりと、起床予定の時間まで眠る。主体は残り一分を六十秒に捉えなおし、その六十秒をいつくしむのだ。そこには絶妙な生真面目さがあって、これから労働に向けて助走していくその半歩手前の時間を過ごす主体がみえてくる。
七・七・五・九・七と区切って読んだが、初読時は「アラームの」で切って初句五音で読んでしまう。そうするとニ句目九音の収まりが悪く、「アラームの鳴る」で初句七音だと思い直す。この小さな揺れにも寝起きの朦朧とした雰囲気を感じてしまって妙に楽しい。
また、四句目は「その」を省けば七音に収まるのに、意図して破調を選択している。「その」六十秒は日常の六十秒とは異なる貴重な六十秒だ。「その」の一語と九音に延ばされた四句目からは、一分を六十秒と捉え直したその時間への哀惜がにじむ。
生きていると、真に自由な時間は存外少ない。やらねばならぬことがあり、やりたいことがあり、無為に過ごしてしまう無駄な時間がある。そんな中で、起きる間際の布団の中は、何からも束縛されない真に自由を感じられる数少ない場面なのかもしれない。だからこそ、主体は、そして今日の朝の私も、その六十秒を徹底的にいつくしむのだ。