粉雪にまみれし毛皮を喜びて蛮族のごとく帰りきたれり

井辻 朱美『水族』(沖積舎 1986年)

 

 たくましい歌だと思う。冬、毛皮に雪がたくさん付着したことに気持ちが高揚した。そして、「蛮族」――まるで野蛮な種族になったような気がしたのだ。

 この時、雪は、自分を変身させ、非日常の世界に連れていく装置である。いつもとは違う、ということが思いもかけぬエネルギーを引き出す。自分の中に眠っていた荒ぶるエネルギーを。

 「蛮族」となったのは複数人ととってもいいし、一人と読んでもいい。

 複数ならば、そのエネルギーは限りない。毛皮のコートに身を包んだ友人たちとしゃべって笑っておどけて、傍若無人に、大騒ぎして盛り上がる。あるいは若さを誇りながら、はしゃぐ。その時、もう怖い物は無い。未開の民族としての一体感、万能感のようなものが、皆を強く輝かせる。寒さなんてなんのそのだ。

 一人ならば、それは北の国の女王だ。野太く豪胆なパワーをからだに満たしつつ、胸を張り、堂々と帰ってくる。冬を手中に収めるような気持ちで。

 

 「粉雪」の繊細さが「蛮族」の力強さに変わる。エネルギーが変換される。

 雪の中に狩りをした太古の記憶が、その変換のスイッチとなったことなども思われて。

 

 「毛皮」は一般的に(昨今はいろいろな批判もあろうが)、ゴージャスなものである。この歌が作られたのはいわゆるバブル時代のあたりで、景気が良かった。そういう時代の気分も反映している歌である。

 

 

 

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