大津 仁昭『爬虫の王子』(角川書店 2006年)
春は、新たな動きへの気配が感じられる季節である。その気配は、いずれ確かなものとなり、未来が形作られてゆく。
では、どんな未来なのか。
下句まで行き着き、仰天。
「二つの目縦に並べる人々歩む」とは……これは相当の進化ではないか。
草食動物は、敵をすぐ察知できるように目が横の方に付いている。ヒトデは手の先に目があるとか。昆虫は複眼を持っているし、カレイの目は移動する……。
人間は、後ろ側を見られないけれど、目のピントを合わせて立体的に像を結び、細かな作業をすることができる。
それが、縦に二つ並んだら 、どんな見え方になるのだろう。
下句の「歩む」という言い切りには、間違いなくそうなるような、確かな未来を垣間見たような小気味よさがある。また、「春」が効いており、人々の歩みも重苦しいものではない。
一連には、
河の下を渡る地下鉄 ポケットにひらりと入りし魚族の友
白鳥の散歩道とや薄明を鳥と人との混血渉る
などの歌もあり、他の生物との境界が緩くなっている。短歌はやすやすと進化を遂げさせる。こんな世界も悪くなさそうだ。
にしても、生物としての必要があるから進化がある。ならば、目を縦に並べるメリットとは何か。
仰向かなくても空を眺められる。かがまずとも地面付近が見えるので、落とし物をしても気付ける。しかし、鼻が邪魔だ。鼻と一直線上にならないよう、目を配置しなければ。
また、美への意識も変わってくる。目と目の間隔はどうか。いかに美しく縦に並んでいるか。新たな黄金比率が模索されるのだろう。
どんな未来があるから、このような目の配置になるのか。
春の日、つらつらと考える。