小中英之『わがからんどりえ』(1979年)
透徹感のあるうたい始めから、解き放たれる心を感じさせる「両手をひろげて」へと、気持ちよく一首を辿っていると、いきなり重いかたまりのような結句に出会う。
星のように澄んだ目をもって銀河と合一する、手をひろびろと広げて、とうたう、そんな時に、その気持ちよさを潰してしまうような「ひとりは重し」と言わざるをえなくするものは何か。
人間たるもの、このような時にも、体も精神も重力から逃れられないのか。
一つの肉体を得てしまい、一つの自我を得てしまったことの重さ。いったん得てしまった「われ」は、どうにも逃れ難く重い。
初句と四句目が字余りになっているが、その働きがおのおの違うことに目がとまる。
初句の方は、六音になることによって、ことばがある勢いをもって運ばれることになる。対して、四句の方は、両手ひろげて、でいいところにわざわざ「を」を入れて、転換をみせる結句につながるべくある渋滞感を出している。
・秋風にみどり児たりしゆふまぐれみひらきし瞳は矢に射られたり
・射たれたる鳥など食みて身の闇にいかばかりなる脂のきらめくや