大松 達知


「あれ、まさか」前の背に浮くおとろえに粛然として焼香に並む

小高賢『長夜集』(2010)

 

 作者は昭和19年生まれ。すでに、企業の一線を引退し、執筆などの活動に専念している。

 知り合いの葬儀が多くなる年代なのだ。

 焼香の列に並んでいて、ふと目の前に知り合いの存在に気づいた。しかし、違和感がある。以前に比べて、背中の筋肉が落ち、姿勢が悪くなっていたのだろう。

 「あれ、まさか」自分の知っているその人ではないのでないのではないか、と疑う。そうでないことを祈ったかもしれない。

 しかし、即座に現実を受け入れて「粛然」とする。愕然とする瞬間の後に訪れる「粛然」である。

 死者とその人物の後ろに自分が並んでいる、露骨なまでの序列に衝撃を受けているシーンである。

 自分もいづれ、後ろ姿の衰えを誰かに見せる日が来る。或いはもう、見せているのかもしれない。そして、いづれ遺影の人になる日がくる。それは明日かもしれないし、30年後かもしれない。

・晩年はそっと背(せな)よりしのびより大きなる手に押してくるもの

・要するにという発想の外に出てもうこれからは息災くらべ

・いくつくらいまで生きたいのかと聞かれたり娘の何気なき率直な問い

など。この歌集には、早くも老いを現実のものとして意識し始めた作者が、迷いがある自分を納得させようとする様子が見られる。怖いのだけれど、歌としてはおもしろいのだ。