方言をよく喋るよと大和野の天に鳴く雲雀を指さしたまふ

『白木黒木』前川佐美雄

 鳥の声にも「方言」はある、という。面白い歌である。「指さしたまふ」の主は、伊藤一彦の解説(『鑑賞・現代短歌 前川佐美雄』)によると『鳥の歌の科学』を書かれた川村博士であるという。前川佐美雄の雲雀の歌といえば、「火の如くなりてわが行く枯野原二月の雲雀身ぬちに入れぬ(『捜神』)」という懐に火を抱いたような歌もあるが、ここにあげた雲雀は、声も長閑かな、いかにも春の大和野のものだ。その土地の長閑さが、「天に鳴く雲雀」にも「方言」があると思わせるのだろうか。
正岡子規の『水戸紀行』の中に「鶯の声になまりはなかりけり」という一句がある。利根川べりの取手辺りの住人の、「鼻にかゝる」訛りを耳にして作った句だが、子規はそこで頼山陽の詩に、「鶯の声訛らず」という一節があったことを思い出している。野と川の違いはあるが、人の暮らしの長閑さを鳥の声に重ねて詠むことは古くからあったのである。一九七一年刊。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です