ジャガイモの芽を丁寧にとりながらまだ沈黙に慣れない背中

北川草子『シチュー鍋の天使』(2001)

 

 北川草子(そうこ)さんは、1970年、岐阜県生まれ。2000年4月に病没。

 遺歌集『シチュー鍋の天使』は、「かばん」の有志の手によって刊行された。

 ちなみに、解説は杉﨑恒夫さんと井辻朱美さん。杉崎さんの遺歌集『パン屋のパンセ』もまた、「かばん」有志の手によって刊行されている。

 杉崎さんは、歌集が出るにあたって「多才な若い女性によって大切に育まれてきた、歌と絵と童話の世界を内容とした『絵のない絵本』」が生まれると想像した、と書かれている。

 まさにやわらかでやさしくおだやかな、独特の世界を形作ってきた歌人であったのだ。

 掲出歌でも、「沈黙になれない背中」のフレーズによって現実の世界と自分との距離の取り方に戸惑っているような印象を出している。

 ジャガイモの芽を、それも「丁寧に」とっているとき、人は言葉を発しないのではないか。現実を信じているからこそ集中して作業にとりかかれる。

 しかし、この作中の主人公は、その沈黙によって、「現実」という邪悪な世界に吸い込まれてしまう恐怖感を味わっているようだ。

 そういう繊細なたましいなぜ早く逝かなければならないのか。残念でならない。

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