かたつむりとつぶやくときのやさしさは腋下にかすか汗滲(し)むごとし

小島なお『乱反射』(2007)

 

 なにゆえに「かたつむり」とつぶやくのか不明だけれど、詩とはそのように唐突に始まるものだ。

 かたつむり、という存在をいつも心のどこかに潜ませていて、ふとしたときに取り出してみるのだろうか。

 かたつむり。

 

 「かたつむり」という語と、カタツムリの実体には何の関わりもない。ただ、日本語でそう呼んでいるだけである。

 だから、日本語を知らない人に「カタツムリ」と聞かせてみても、ただの音にしかならない。

 しかし、日本語話者にとって「カ・タ・ツ・ム・リ」という連続音は、脳どころか体にも反応を起こしてしまう。

 

 この場合、この一語にやさしさを感じて腋の下に汗がにじむようだ、と言っている。

 カタツムリが元気な梅雨の季節のイメージがあり、カタツムリの微妙に濡れている触感もある。それらと、人間の中でいつも湿っているような部位をぶつけたのだ。

 いや、二物衝突的にぶつけたのでなく、二物を接合したという言った方がいいかもしれない。

 そのあたりの呼吸と手加減の巧みさが、小島なおの特長のひとつである。

 そういえば、歌集『乱反射』は映画化されるという。

 小島なお役は桐谷美玲と発表されている。楽しみに待ちたい。

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