中津 昌子


手をつなぐためにたがひに半歩ほど離れたりけりけふの夫婦は

大松達知『アスタリスク』(2009年)

 

 

なるほど、手をつなごうと思えば、むしろ少し離れた方が普通はいい。

この場合、夫婦はそうしようとして、保っていた距離をひろげた。「けふの夫婦は」が、いつもは手をつないだりはしないらしいことを思わせる。ちょっと不自然な感じがほほえましい。そう感じつつ、ん、と立ち止まる。

これは、夫婦の状態としては、その実どうなのか。もちろん仲はいい。
でも、こんなことわざわざするよりも、ほどよく離れて歩いている時の方が、お互いの気持ちのあり方としてはずっとしっくりしているのではないか。
そう思わせるのは、「半歩ほど離れたりけり」だろう。このはっきりとした自覚が、全体のちょっと照れたような雰囲気の奥に、何かがキャッチされているらしいことを伺わせる。物理的な描写である「半歩ほど」がまた、ここでの微妙さにぴったりだ。

 

だがしかしまた、「たがひに」とある。

一方での、このぴったりとした呼吸のありよう……。

ふかい。

「けり」に続けて、「けふの夫婦は」と結句で詠嘆することには、この時の夫婦ならではの、心の機微すべてが含まれているのだろう。