中津 昌子


髣髴(ケシキ)顕(タ)つ。速吸(ハヤスヒ)の門(ト)の波の色。年の夜をすわる畳のうへに

釈迢空『海やまのあひだ』(1925年)

大みそかには、眠らないで夜更かしをする習俗が日本にはある。
「年越しには、訪れた年神に侍座する心から夜通し起きている」と『歳時の文化事典』『(八坂書房)にある。

そのようにして畳の上に座っていると、ぼんやりと「速吸の門の波の色」が立ち顕れてくる、という。

速吸の門は、現在の豊予海峡。大分県の関崎と愛媛県の佐田岬の間の海峡である。記紀において、神武天皇が東征の時に渡ったとされる。

何という壮大さであろう。
迢空は、特別に古代を直観する力があったが、それにしてもたちまちに記紀の時代にまで遡って、「波の色」を感受するこの歌のさまに、ある衝撃を覚える。大みそかにおける、この歌の時、場なればこそであったであろう。
重い声が底ごもりながら湧いて出るようだ。そこに引き込まれて、せめて迢空を介して、思いをはるかにやる。

迢空の、このはるけさのなかに含まれているものを、どんな時代にあっても胸にとどめていたいと思う。

私の担当は今日が最後となります。

一年間読んで下さいまして有難うございました。
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〈日々のクオリア〉は来年から新しい書き手によってフレッシュにスタートいたします。ご期待下さい。