〈あげた愛〉〈ほしい愛〉とのバランスを計りかねてるセーの法則

田中槐『ギャザー』(1998年)

「セーの法則」は、200年くらい前に唱えられた理論。フランスの経済学者J-B.セーというひとの名に由来する。
「供給はそれ自らの需要を生み出す」、つまり需要と供給がアンバランスになっても価格調整によって最終的には重要と供給がバランスを保つ、という原則によって、全般的過剰生産を否定するというもの。

なんだか難しい話だが、この歌においては、その経済学的理論を「愛」にあてはめようとするアイロニーがまずおもしろい。

〈あげた愛〉が供給、〈ほしい愛〉が需要、だとすると…。
愛すれば愛するほど、愛は希求される、ということか。
いや、愛は求められて注ぐものではなく、自発的に与えたくなるもののはず。〈あげた愛〉と〈ほしい愛〉は全く別の次元で語られるべきものなのだ。
愛は、〈あげた〉から〈ほしい〉でもなく、〈ほしい〉から〈あげる〉ものではない。

しかし、ひとはしばしば、それを忘れてしまう。
だから、愛を注ぎすぎたり求めすぎたりして、傷つけあう。

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