江戸 雪


子を守ることよりほかは道楽と思ひいたれば心安らぐ

吉浦玲子『精霊とんぼ』(2000年)

若いころは、西か東か、行くか留まるか、手放すか持ち続けるか、そんなことに悩んでいた。
しかし、やがて齢を重ねるとともに自分以外の人や事物との関係が増えるためか、なにごともかんたんに決断しにくくなる。ましてや、自分がどう生きるかという問いの答えなどを単純に導きだすことは、不可能である。

悩み続け、ある日ふいに目の前がぱっと明るく開けるおもいがするときがある。
それは、なにごとかをすっぱり切り離したり、考えることを止めたりできたということ。
そういうと、逃げや諦めのようにとられるかもしれないが、そうではない。自らのもっとも大切なものが何かということを、悩みの場から少し外に出て理解できたということだ。

「思ひいたれば」という一節に、どれほど悩み迷い苦しんだかが読みとれて、胸が苦しくなる。
けれど、「子を守ること」という単純で困難な結論を持てたことで、気が楽になったのだ。あとはいっさい「道楽」だと。この潔さ。

守る、という命題のまえに、親は子にすくわれる。必要とされる自分に出会えるからである。

子が笑っている。
それだけのために生きていてもいいかな、とおもう。