黒瀬 珂瀾


体には傷の残らぬ恋終わるノンシュガーレスガム噛みながら

玲はる名『たった今覚えたものを』

 

身体に傷は残らなかった。ということは、心には傷が残ったのだ。そうしてひとつの恋が終わった。で、「ノンシュガーレスガム」ってなんだろう。「ノンシュガーガム」「シュガーレスガム」なら解る。砂糖類の使用をひかえたガムのことだ。でも、「ノン」と「レス」という打ち消しが二つ重なることで、このガムが結局、砂糖まみれのガムだということが分かる。

 

だが、甘いガムを噛み続けていれば、いつしか甘みは無くなる。ちょっと前までは糖分を含んでいたのに、その糖分を飲み下し、口の中には甘みの無いガムだけが残る。ノンシュガーではなかったけど、いつのまにかシュガーレスになった、噛みさしのガム。甘みを味わいつくしたらあとは無味。もしかしたらいくつかの恋も、同じような味かもしれない。

 

上句は反語的であり、下句は二重否定。こうまで廻りくどい言い方をしなければいけないのは、この恋に傷つき、諦めた自分を、まだ認めたくない心があるからではないか。幼さを感じさせる口語の使用が、主体の繊細さ、傷つきやすさを暗示する。

 

  ラブ! ダーリン 動詞が好きよ、なによりも。だってうごうごするんですもの。

 

自由奔放に見えて、高度な修辞意識に満ちた歌だと思う。「うごうごする」にはどこか、セクシャルなイメージがある。静的な名詞、従属的な形容詞ではなく、現在を動いてゆく動詞を恋う心。それは、刹那の愛欲を突っ走ることで、今の悲しみを忘れたいという願いかもしれない。これらの口語は傍若無人に見えて、その実際は、孤独な魂の反映であるのだ。