石川 美南


愛すべき冥王星の小ささを誰も言はなくなりけり誰も

今野寿美『雪占』(2012)

 
 ※「」「」はゴシック体。以下の文章の太字部分も、原文は全てゴシック

 

『雪占』は3月29日に棚木さんも取り上げているので(http://www.sunagoya.com/tanka/?p=7426)、今日は歌集中の「雪占」という連作に絞って書いてみたい。

 2010年11月の内閣告示で常用漢字表が改定され、「」「」「」「」「」「」など、196文字が新たに追加されることになった。連作「雪占」は、追加された漢字を歌に織り込みながら、日本の文化の様々な側面を切り取っている。

王星は長らく太陽系の第9惑星とされていたが、惑星としての条件を満たしていないとされ、2006年に「降格」した。私も子供の頃は「スイキンチカモクドッテンメイカイ」などと唱えて惑星を覚えた記憶があり、「メイ王星」が外されたときは寂しく思ったものだが、王星が惑星でないことが常識になってしまった頃になって「」の字が常用漢字表に加えられたのは皮肉なことだ。

 今野寿美は追加文字一覧のなかに「」を見つけ、そこから王星に思いを馳せたのだろう。かつて惑星の仲間だった小さな天体への愛着をしみじみと伝える歌であるが、さらに「」も紛れ込ませているところに、さりげない遊び心を感じる。
 
  曖昧な定義によりて「」「」をやつと加へた常用漢字表
   二十九年ぶりの改訂一覧の常用漢字に灯りたり
   やや邪悪な宮に花もたせ女心といふ千年史
  少年がと言ひ始めるときの小さなが母には見える
  冬柏(ツンバク)が先か椿が渡つたか 致が「ら致」では押しきらるべし
 
いすまして作った気配などかにもわせることなく、漢字たちと自在に戯れてみせる。その一方で、常用漢字表の定義の曖昧さもきっちりと見抜いている。歌う内容も、源氏物語から致問題まで実に幅広い。こんない遊び方、今野寿美以外のができるだろう(嫉妬)。
※何とか真似しようと、追加文字を織り込みながら書いてみたが、思いきり不自然な文章になってしまってがっかりである。

 
     削除五字
  かなしみはもとより忘るべくもなくをつけて過去形にする
  てのひらに375グラムの百とふころあひの嵩
 

196文字が追加された一方で「」「」「」「」「」の5文字が削除されることになった。「」や「」、また真珠の単位である「」については、事前の漢字小委員会やパブリックコメントなどでも削除に反対する声が寄せられていたが、結局覆らなかった。常用漢字表はあくまで漢字使用の「目安」とされるもので、ここから外れても、使えなくなる訳ではない。しかし、その漢字を日常的に使っていたり、思い入れがあったりする人にとっては、やはり寂しいことなのだろう。

連作「雪占」は、「」と「」を使った歌で締められている。追加された文字だけでなく、削除された漢字にも心を寄せる優しさに、ほんのりと心温まる思いがした。

 

 

余談だが、先日棚木さんが紹介されていた、
 

  雨ゆゑにブルドーザーが休む日の地表いまだけ本音のにほひ  p.156
 

の前には、

 
  切り売りの噂が迫り収穫を終へたる梅の百本黙然  p.126
  梅の木を伐り倒す音この丘のわれらの暮らしのそこまできてゐる  p.155
  三十年の平穏揺りあげ梅の木の六十本が倒されにけり  p.156
 

があり、関連する作品として読んだ。一首だけだとほのぼのとした情景のようにも思えるが、これらの背景を踏まえると、「ブルドーザー」の動向が、語り手にとって重要な関心事であったことが伺えるのではないだろうか。