魚村 晋太郎


右足から蔓を伸ばして右耳に凌霄花の花咲かせたし

駒田晶子『銀河の水』(2008年)

凌霄花(ノウゼンカズラ)は、付着根で他のものにからみついて登るつる性の植物。
梅雨の間から盛夏にかけて、朱橙色の漏斗状の花をたくさんつける。
中国原産で、日本には9世紀にすでに渡来していた。
霄壤、といえば、天地のことだが、霄は空の意味で、凌霄花とは空を凌ぐ花、という意味か。

凌霄花は長い間、一番好きな夏の花だった。
最近は、自分の気持ちにくらべてすこし派手派手しい感じがして、ひところほどの思い入れはないが、それでも好きな花だ。
派手派手しい、と書いたが、凌霄花のピンクがかったオレンジ色には、シャーベットみたいな涼しげな印象もある。
塀や壁を這い登り、何か思いを遂げるように夏空に咲きあふれるさまもいい。

一首は、ややナルシスティックな歌だ。
けれど、右足から右耳まで、ぐるりと体を巻いて蔓を伸ばすその感覚に、自分の気持ちを美しく形にして相手に届けたい、という他者へのあこがれも感じられる。
右の足、右の耳、という限定して言っているところに、自分自身の若い体をなであげるような、初初しいエロスも感じる。

植物は、根から水を吸い、太陽のひかりを受けて自らを育む。
風に揺れる細い茎の先に、どうしてあんなに鮮やかな色の大きな花をあふれるようにつぎつぎとつけるのか、考えてみるととても不思議だ。
ひとの恋心も思えば不思議。いつからこんなに好きになったのか。なぜこのひとでないといけないのか。
主人公は、相手の言葉や行為に、すぐに応えるようなタイプではない、みたいだ。
すこし時間をかけて、自分の思いを確かめながら、若い命のエネルギーを鮮やかに咲かせようとしている。