ひるがほは火傷のやうにひらき出づこの叢(くさむら)にあなたは笑ふ

小池光『バルサの翼』(1978年)

『昼顔』というフランスのすこし古い映画を、リバイバル上映で観たことがある。夜は夫に優しくありながら、昼間は売春をしてしまう、美しくも悲しい残酷な妻の話。カトリーヌ・ドヌーヴにうっとり魅せられたが、内容は人間の深層部につきささってくるような苛酷なものだった。
この歌の「ひるがほ」「火傷」「叢」「あなたは笑ふ」といったフレーズのひとつひとつに、あの映画『昼顔』のイメイジが重なった。

「ひるがほ」はまるで「火傷のやうに」咲くという。
あつく火照った強い痛みの火傷。ねじれていた蕾がほどけ、花がひらくたびにずきんずきんと身体のどこかが痛むような感じがする表現だ。

そしてそんな「ひるがほ」がぽつぽつとある「叢」に、「あなた」はいる。笑っている。
笑っているのに、かなしいのはなぜだろう。
笑っているからかなしいのか。
なにか大きな洞をかくしているような笑顔。その笑顔に不安になるのだ。とつぜん大きな洞をかかえたままどこかに消えてしまいそうで。
そんな疑念は「あなた」がそばにいるかぎり、きえることはない。
「ひるがほ」の花びらは、その不安な予感の象徴として咲き継ぎ、風にゆれている。

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