江戸 雪


ゆうぐれの電車静かにポイントを渡る今からおまえが好きだ

中澤系『uta 0001.txt』(2004年)

なにかきっかけがないと「好きだ」といえない。
とても近くに居すぎて、長いあいだ友だちでいたから、今さら「好きだ」と自分でも認められないってこともある。

このとき、べつにきっかけを探していたわけではない。けれど、昼のおわりの、空気がすこし紫を帯びたようにかすむ「ゆうぐれ」、ふいに思いがあふれてしまった瞬間がやってきた。

ふたりを乗せた電車は、すうっとふたりのからだを運びはじめる。
何かにおされるような力を体に感じながら、ふたりの関係も動きだせそうな気がした。
そうしていると、列車が一輛ずつ「静かに」ポイントを越えていく。
「今からおまえが好きだ」。
その告白は、おもいのほかかんたんに力づよく言えた。

この歌、それぞれの言葉がほんとうにうまく配置されていて、他の言葉の余韻をひきだしている。
たとえば、「ゆうぐれの」は「電車」や「ポイント」や「おまえ」にさびしさを、「静かに」は「電車」「渡る」「ポイント」「今から」などにやさしさをもたらす。
なんでもない言葉が、このようにぶつかりあい、読者のこころに届く。そのちからをあらためて感じた。