魚村 晋太郎


まよなかのメロンは苦い さみしさをことばにすれば暴力となる

兵庫ユカ『七月の心臓』(2006年)

メロンは瓜科の一年草で、エジプト原産。
香りのよいマスクメロンのマスクとは麝香(musk)のことだ。
果皮の成長が果肉の成長に追いつかず、ひび割れたところが網目模様になる。
東洋系の甜瓜(まくわうり)の改良されたものはプリンスメロンと呼ばれる。
瓜科の果菜には苦味の成分がふくまれていて、甘いメロンの場合でも、ときおり苦味がつよくでていることがある。

不意に感じたメロンの苦味に、こころのそこにわだかまっていたさみしさがにわかに立ちあがったのか。
或いは、甘いメロンの果肉にかすかな苦味のあることに気づいて、舌の先からじわじわと心細さのひろがってゆく感じか。
いずれにしても、メロンの苦味は、主人公の気持ちとふかい関わりがある。
下句は一種の箴言として読むこともできるが、ひとりの女性の一回性の思いとして読んだほうが、そのせつなさは際だつ。

思いあっているけれど、逢えないふたりがいる。
それとも、逢うだけではとげられない、なにがしかの思いがあるのか。
さみしさを口にだしてしまうと、その言葉は相手のこころを傷つけ、関係をこわすことにもなりかねない。

もちろん、相手を傷つけ、関係をこわすことも恐れずに、言葉にしなければ伝わらないことだってある。
主人公は、そのさみしさを飲み込んだのか、口にだしたのか。
現実には、言ったか言わなかったか、そのどちらかなのだが、一首には言おうか言うまいか思い切れずに、そこで時がとまってしまったようなせつなさがある。
堂堂巡りのこころが、メロンの果肉に苦く熟していくようだ。