秋月祐一『迷子のカピバラ』
(2013年、風媒社)
短歌と写真のコラボレーションを先週土曜日につづきもう一冊。こちらはテレビディレクターとして活躍する作者が撮影もおこなっており、オールカラーがきわだつ仕上がりです。
先週土曜日は隅田川花火大会があったので、都内の離れた場所でも電車に乗ると、浴衣姿の若い人たちをちらほら見かけました。
暗く暑く大群衆と花火待つ 西東三鬼
音たかく夜空に花火うち開きわれは隈なく奪はれてゐる 中城ふみ子
打ち上げ花火ほど危険で美しい人工物は、そうそうありません。花火を開発してきた人たちの情熱を思います。むかしから人の心に高揚と緊張をもたらしてきた花火は、秋月さんの歌では永遠の恋への願いにスケールアップしています。
〈ぼくたち〉が死ぬまで、死んだあとも共にいられますように、という。
五億年という設定は、高橋新吉の有名な「留守と言へ/こゝには誰も居らぬと言へ/五億年経つたら帰つて来る」(「るす」)からの連想でしょうか。この詩だと話者自身が五億年後に存在することになりますが、秋月さんの歌では誰に〈さがせ〉と命じているのでしょう。
未来人とか宇宙人とか、たのしい空想もいろいろできますが、魂の不死を信じて自分たちに言い聞かせているのかもしれません。
永遠への思いから照らし返しつつ、あくまでも現在の恋をいつくしむ歌です。
地底湖に落としたカメラ ぎこちないきみの笑顔を閉ぢこめたまま
相手より長生きしようおたがひに(お化けは死なない)約束しよう