林檎の花透けるひかりにすはだかのこころさらしてみちのくは泣く

『花の渦』齋藤芳生

 一首の初めと終わりの他はすべて平仮名で書かれている歌である。平仮名で書かれた「すはだかのこころ」とは何か。作者の「こころ」と「みちのく」が一つであり、ともに「すはだか」であるということであろう。

「林檎の花」に象徴される「みちのく」という地は、作者の故郷である。二〇一一年の大震災につづいて原発事故の被災地となってより、作者は生地である福島を歌いつづけている。時には訛りも交えた歌い口には、〈語り〉のような趣もある。「林檎の花」が春の光に透ける一番美しい季節の「みちのく」を、「こころさらして」「泣く」という率直な言葉で語るのである。故郷によせる「すはだか」の哀しみと愛しさが、林檎の花の渦から静かにやわらかく立ち上ってくるようだ。二〇一九年刊行の第三歌集。