光森裕樹


十月の孟宗竹よそうですか空はそんなに冷えていますか

佐藤弓生『世界が海におおわれるまで』(沖積舎:2001年)


(☜5月19日(金)「月と空 (11月)」より続く)

 

◆ 月と空 (10月)

 

十月の竹林を歩いていると、周りを囲む孟宗竹が話しかけてきた。高く伸びた竹の先端は、空に触れているようにも思える。空はとても冷えているよ、という竹の声に頷く――
 

冷えた空の澄み切った青色と、竹林の緑色が映像として美しい。見上げる私→孟宗竹→空という縦方向の意識のすっとした動きも気持ちよい。
 

その動きを助けるような、なめらかな言葉運びにも注目したい。「孟宗竹」は「もうそうだけ」とも「もうそうちく」とも読めるが、続く「そうですか」という言葉との音としての対を考えると、前者で読むほうが良いように感じた。一首全体を通して語頭に「そ」の音が多いのも、流れるようなリズムを生むことに貢献している。
 

韻律やリズムが一首にもたらす効果を測るのは難しい。例えば、「母音aの音は明るいイメージが…」という評を耳にすることは多く、私自身もそのようなことを言った記憶が多くあるが、いくらでも帰納することはできるのに演繹することはできない事柄のような気もする。なめらかなリズムの一首が、そのなめらかさゆえに評価されることも、「ひっかかりがなく、さらりと流れてしまう」と評されることもあるだろう。
 

いずれにせよ、私にとって掲出歌は、リズムの優れた歌として長く記憶しているものであることに変わりはない。
 
 

(☞次回、5月24日(水)「月と空 (9月)」へと続く)