光森裕樹


薄暗い頃に目覚めてジャスミンの香りに喉をしめらせてゆく

轟車自転車「ブルーシールアイス」(『立命短歌』4号:2017年)


(☜8月21日(月)「学生短歌会の歌 (3)」より続く)

 

学生短歌会の歌 (4)

 

連作「ブルーシールアイス」は次の一首に始まる。
 

騙されたわけじゃないけど長袖で残暑の続きの那覇に降り立つ

 

誰かに「日焼けしないためにも長袖がいいよ」と言われたのだろうか、それとも自分で総判断したのだろうか。とりあえず長袖を着て那覇に来たら、まだまだ暑くて着ていられない。まるで騙されたようだ――と感じたのだろう。普段生活している土地と沖縄との距離や感覚のずれが、一首から体感として伝わってきて面白い。
 

沖縄が舞台だと分かれば、掲出歌における「ジャスミンの香りに喉をしめらせ」るという行動が、ジャスミン茶の一種であり沖縄で広く飲まれている「さんぴん茶」を飲むということを示しているのだと分かる。
 

それが、どれくらい読者に通じるものかは分からない。けれども、沖縄で暮らし、普段からさんぴん茶を飲む人には「【さんぴん茶】の香りに喉をしめらせ」るとしか感じられないものである。「さんぴん茶」と「ジャスミン(茶)」との翻訳関係のような結びつきを強く意識できるのは、旅する身であるからこそだ。
 

那覇空港に着いて、どこかの宿で一晩を眠る。それまでの間にきっと、「さんぴん茶」ってなんだろうと口にして、「これってジャスミン茶だよね?」と思った瞬間があったにちがいない。掲出歌にはそんな体験を、まだ薄暗いなかで再確認するような、しっとりとした時間が描かれている。
 

まだ外も宿の中も静かな時間帯だろう。さんぴん茶が喉を通る、こくりとした音だけが聞こえてきそうだ。
 

木陰まで笑って歩くブルーシールアイスに濡れる指先のこと

 

同じ連作から。沖縄を代表するブルーシールのアイスクリームを買ったところ、強烈な暑さのなかででどんどん融けてくる。アイスクリームがついた指を笑いながら、おそらくは友人と、木陰へと向かう。
 

かといって「走る」わけではなく「歩く」点が面白い。実際のところ、アイスクリームが融けることなど問題ではないのだ。沖縄の夏を全力で楽しむ様子が伝わってくる。
 

全身で感じる暑さと、指先で感じるアイスクリームの冷たさの対比が印象に残る。
 
 

(☞次回、8月25日(金)「学生短歌会の歌 (5)」へと続く)