男とはふいに煙草をとりだして火をつけるものこういうときに

俵万智『かぜのてのひら』(1991)

 

 「こういうとき」が何かは明示されていない。

 だが、男性が女性と話をしていて、都合が悪くなると急に煙草を吸い始めて一人の世界に逃げ込んでしまう、ということがある、らしい。

 

 俵万智の言葉のキレの良さを感じさせる歌。

 「男とは」とゆっくり語り始めて、「ふいに煙草をとりだして火をつけるもの」と場面を作り、「こういうときに」と倒置しながら場面を展開し、足早に言い終える。

 恥づかしいことを早口で言っているのだけれど、定型に収まっているからゆっくり読まなくてはならない。その緩急のバランスが揺らいでいるところに、作者の心理の揺らぎを感じることもできる。

 もちろん、「吸う」と言わず「火をつける」と言っているのも巧みだ。

 

 かつて、煙草はこのように男女間の間合いをとる小道具としても使われてきた。(会話に困ったときにはとりあえず煙草を吸っていればいい、と教えてくれた人もいた。私は吸わないけれど。)

 静かに煙草を吸うのを男らしいとか、それをじっと見ているのを女らしいとかいうことはもうできない。けれど、そういう文学上の要素があったことは事実だろう。

 かつて、煙草の歌を理解したいから煙草を吸っている、という人に会ったことがある。その人は煙草の似合う人だったなあ。

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