澤村 斉美


浮彫(レリーフ)の校歌に夕のひかり射し家族は見上ぐ投票に来て

花山多佳子『胡瓜草』(2011年)

学校の体育館に、校歌が掲げてあることがある。銅板や真鍮板に歌詞の文字を浮き彫りにしている。選挙の投票所となっている近所の学校の体育館に家族でやって来て、そのレリーフを見上げているという。夕方の光がレリーフ射している。どこかなつかしいにおいのする一首だ。

 

レリーフの校歌という物自体が、おそらく多くの人の学校の記憶にうったえるのだが、「夕のひかり射し」が良いのだろう。体育館の高い位置にある窓から横ざまに射す夕光が思い浮かぶ。金属製のレリーフが光を帯びているところや、盛り上がった文字が影を生む様子まで思い浮かぶ。「投票に来て」にもさまざまなことが読み取れる。選挙の投票所というと、家から歩いて行ける範囲にある公共の施設、特に学校であることが多く、投票日は日曜日であることがほとんどだ。日曜の夕方に、家族の何人かでぶらぶらと投票に行く、ゆるやかな時間が一首に流れている。

 

親と、すでに投票できる年齢の子供が共にいて、それぞれに学校の記憶を反芻している雰囲気だ。近所の投票所が、もし子供が昔通った学校であるなら、親も何かと訪れたことだろう。大人になると、あるいは子供が大人になってしまうと、学校を訪れることはほとんどなくなる。投票のためたまたま訪れて、古い時間に立ち交じる。なつかしいにおいのする訳はそんなところにありそうだ。