吉野 裕之


役にたつやうさまたげにならぬやう名札小さく〈ボランティア〉なり

木畑紀子『歌あかり』(2008年)

 

私たちの社会のさまざまなところで、ボランティアが活躍している。特定非営利活動促進法(NPO法)の施行が1998年12月。市民主体の多様な活動を社会全体で推進していこうと制度を整えはじめ、10年以上の時間が経ったことになる。1995年の阪神・淡路大震災は不幸な出来事だったが、こうした動きを加速させた。延べ100万とも150万ともいわれるボランティアの活動が、救援・復興に大きな役割を果たした。私たちの社会は、市民が大きな力をもっていることを実感した。

私たちの社会はいま、多くの課題を抱えている。これまで重要な役割を担ってきた行政セクターと企業セクターだけでは対応できない、複雑な問題が生じている。NPO=市民セクターは、人びとが安心や豊かさを実感できる、そんな生活の実現のために、活動の範囲を広げている。専任スタッフはもちろん、志を同じくする多くのボランティアが、それを担っている。

ボランティアは、自発性、自主性に基づく社会的な行為。多くが無償だが、自らの意志で自らの時間を活用する。「役にたつやうさまたげにならぬやう」。おそらく、ここにボランティアの本質がある。役に立たなければいけないし、妨げになってはいけない。しかし、なかなか難しい。まずは、名札を小さく。大きな名札に「ボランティア」とあったら、確かにわかりやすいが、それだけで妨げになってしまう。ボランティアが求められるのは、多くが日常の生活の現場だ。そこには、ひとりひとりの生活の営みがある。大きな名札はノイズでしかない。寄り添うこと。それが基本なのだと思う。「〈ボランティア〉なり」。「なり」がやさしい。

 

山ふかく倒木おほし跨ぎかつ潜りときどきつかまりてゆく

百年後には松籟をきかせゐよ松の実生はみどりの五寸

あきかぜの吹く無人駅市振の赤いポストは遊女のやうな

電線を両にしなはせ直ぐ立てる野の鉄塔は樹よりさびしい

返す人なけれどふかくお辞儀して車両を出入りしたり車掌は

タンポポにあらざるわれは野みち行き白い封書をポストに落とす

老い人の足とわが手が湯のなかでごちやごちやとして温しいつとき

 

リズムのよさが一首に張りを与えている作品たち。「年齢で言うと、五十四歳から五十八歳までに当たり、いわゆる更年期を通過したあとの、老いを意識しはじめた時期の作品で、いささか寂しい内容となってしまったのもいたしかたないと思っている」と、「あとがき」にある。しかし、一首一首は伸びやかで、明るい。リズムのよさがこうした印象を支えているのは間違いないが、木畑の視線の明るさ、つまりもの/ことを肯定的に受け入れていく精神の健やかさが、最も大きな理由だろう。