ちちんぷいぷい 何の呪文でありしかなТPPを見ざる日はなく

池本一郎『萱鳴り』(2013年)

「ТPPを見ざる日はなく」という下句は、「ТPP」という言葉を新聞やテレビの上で、ということだろう。この作者の歌には、飄々としたユーモアが感じられて、いつも楽しくページをめくることができる。

ジャーナリストの堤美果の本などを読めば、現在日本人が置かれている状況は、長新太作の絵本『ブタヤマさんたらブタヤマさん』の主人公のようなものだということがわかる。『ブタヤマさん~』についての出版社の紹介文を引くと、「ブタヤマさんは、ちょうとりに夢中。うしろからおばけや、大きなイカやヘビなどが呼びかけても知らん顔。ちょっとこわいが楽しいお話。」とあって、河合隼雄が最終講義で引いているのをテレビで見て以来、私はこの絵本が恐るべき傑作だと思うようになった。

私は自分が調べ物や考え事をしている時など、コンステレーション(共振)によるものとしか考えられないような偶然にしょっちゅう出くわす。何か調べたいと思って手に取った本をぱっと開くと、そこに知りたいと思ったまさにそのことが書いてあるというようなことは普通のことだ。これは誰にでもあることで、別に特別な能力ではない。むろん本や資料の場合は、熟練や慣れによるものもあるけれども、普通に仕事をしていれば予想したところに予想通りのものが来るということは、ありがちなことである。だから、人間にはもともとそういう能力が備わっているのだと思う。

さて、「ちちんぷいぷい」と言って退散しないお化けをどうしたものか。ゲームに移し替えて、ゼロ戦で撃ち落とすのもいいかもしれない。

 

編集部より:池本一郎歌集『萱鳴り』は、こちら↓

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