松村 由利子


バタ足のふと軽くなる一瞬あり水は静かにわたしを恕(ゆる)す

 佐藤きよみ『パウル・クレーの憂鬱』(1995年)

 

泳ぐのが好きだ。うまくはないので、自分のペースでゆっくりゆっくり泳ぐ。

身体がなかなか水となじんでくれず、無駄な動きをしているのだろう、盛大な水しぶきをあげてしまう。上手な人は動きがなめらかで、ほとんど水しぶきをあげない。「ああ、この人は水と仲がいいんだなぁ」と羨ましく眺めるばかりだ。

しかし、まじめにプールに通っていると、確かに「バタ足のふと軽くなる一瞬」を体験することがある。がむしゃらに泳いでいたのに、ふっと手足の動きや姿勢がうまく合って、水の抵抗が小さくなる感触、それは、水と一体になったような本当に幸福な瞬間である。

この歌の魅力は、その微妙な一瞬を切り取ったこと、そして、さらに水にゆるされたような気持ちを感じたことだろう。何か苦しいものを抱えていた作者なのかもしれない。誰かに受け容れてほしいのに、それがかなわない――そんなときに、水が自分のすべてを受容してくれたように感じられたのである。

本当は、その誰かにゆるされることを願う作者なのだ。静謐な明るさに満ちていながら、一首には、言いようのない寂しさが漂う。それは多分、けっして自分を受け容れてくれない存在に対する悲しみを湛えているからだと思う。