あらゆるルートをさぐるといふが、らすかる國への飛行ルートさへも

川崎あんな『ぴくにっく』(2015年、砂子屋書房)

『ぴくにっく』は変った歌集である。装幀は濃いピンク(多分、”ナントカピンク”とか言うのだろうが)一色で、著者名、タイトルが右から横書きで箔押しされている。漢字は徹底して旧字であり、タイトルをはじめとする外来語も大半が平仮名表記である。しかも通常漢字で表記するような言葉の多くが、旧仮名平仮名表記なので、率直に言って、結構読みにくい歌集である。その分、読み流すことが出来ず、一首一首立ちどまって考えながら読んでいかなければならない。多分、それが作者の狙いでもあろう。

掲題の一首、この作品だけ取り出してもでは状況が掴みにくいであろうが、前後に下記のような作品が置かれている。

身代金としてにほんこくに發信の72時間以内に2000000本の人参

道のかたへ置かれてありしはひとらしいもののかたちの だからといつて

これらの前後の作品から、掲題の一首も2015年1月に起きたIS(当時は”ISIL”と言っていた)による二人の日本人の拘束・殺害事件のことと判る。72時間以内に2億ドルの身代金支払い要求を受けた日本政府は、”拘束したグループと接触するあらゆるルートをさぐる”と言っていた。更にこの一首にはもう一つ仕掛けがある。「ラスカル」と言えば、我々はテレビアニメ「あらいぐまラスカル」から、愛くるしい小動物を連想するが、英語のRascalは「人でなし、悪党、ごろつき」を意味する。それから派生して、人や動物のわんぱく者、悪戯者などの意味をも持つ。アニメの名前は多分、この派生的意味から名付けられたのであろう。ひょっとしたら作者は「らすかる」の一義的な意味を念頭に置きながら、こう言ったのかも知れない。もしそうであれば、作者はこの作品で日本政府の泥縄式対応をと共に観光グループも非難しているようだ。

このようにこの歌集には、いたるところに巧妙な仕掛けがあり、それらを読み解くと、この歌集が現代社会や文明への厳しい批判となっていることに気が付く。