ポケットに電球を入れ街にゆく寸分違はぬものを買ふため

光森裕樹『鈴を産むひばり』(2010年)

 

 

どうしてこの歌に魅かれるのだろう。

電球が切れたとき、同じものでないと具合が悪いから、ワット数などをメモして持っていったりする。それがここでは、外した電球をそのままポケットにつっこんだ。いわばそれだけだ。

 

「寸分違はぬ」が目立つ。
たかが電球、その同じものを買いにいく場面で選んだ表現としては、度を越したところがある。
このつきつめ方が痛々しさを感じさせる。

 

電球を入れれば、ポケットはふくらむだろう。ちょっと異様な位に。
だけど、ふくらんだ中はからっぽ。ふくらませているものはとても壊れやすい。
その変なアンバランス。
そんな風なものを自分の一部として、街に出ていくということ。

 

また、この一見気軽な行動は、本人の身軽さを伝えもするが、そのことは、一首の中では自由さにつながらず、さびしさを感じさせる。

 

ポケットをぷっくりふくらませた様子の、ある滑稽感や、「街」の一語がもつ華やぎが、この人物の表しがたい心のありようをより浮きあがらせる。

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