松村 由利子


私の中の古さとあなたが言い放つものがやさしさなのです私の

 内田静『つきひしずかに』(2007年)

 

ある年齢に達した人の矜持が感じられる一首である。「あなた」は、作者よりも若い世代の人、息子か娘ではないかと思って読んだ。

七音の初句は少し口早に始まる。そして、下の句は少しぎくしゃくとうねるように、しかし、きっぱりと言い放たれる。「古さ」とは、どんなことを指すのだろう。きっと「あなた」にとって「厳しさ」に近いものではないだろうか。けれども、作者はそれこそが「やさしさ」なのだと言う。明治生まれの人のやわらかな口語表現に魅せられる。

作者は、ロシア文学の翻訳で知られる内田莉莎子の母。掲出歌は七十三歳のときに作られた。「未来」に所属し、斎藤史や寺山修司、紀野恵の作品を愛したという。

『つきひしずかに』は、たった五十四首が収められた、私家版の遺歌集だ。しかし、何とも滋味にあふれた一冊であり、忘れ難い歌がいくつもある。長く歌を支えとして生きた人の息づかいが感じられ、大切に持っている。歌は生き方そのものなのだと思わされる。