あかねさす日清戦争、/砲弾が指に貼りつく/ゆめよりさめて

加藤治郎『東海のうたびと』

(2016年、中日新聞社)

※3行表記のため、改行位置を/で示しました

 

短歌をはじめたころ何度か聞いたことのひとつに、歌人の分布で考えれば首都は東京ではなく名古屋になるという話がありました。歌人人口が多く、かつ活動が盛んとのこと。

そんな“首都圏”ゆかりの歌人、佐佐木信綱から現在20代の立花開まで31人の作品をとりあげ、鑑賞を付した本が出ました。

鑑賞といっても、著者の個人的な思い出から書き起こされるドキュメンタリーとなっており、人間の行動、肉声への愛着がうかがわれます。

本の後半は、著者自身が行動する人として前世紀末の名古屋の建物や名物を訪ねた記録で、そのつどの一首が写真とともに添えられています。「加藤治郎さんと歩く、すこしむかしの名古屋ツアー」といったおもむきで、たのしい読書でした。

掲出歌は、名古屋市千種区の第一軍戦死者記念碑の印象。1900年に鋳造されたもので、写真によると、塔のように天を向く巨大な砲弾を戴いた形をしています。

戦死者の慰霊のためとはいえ、アジアの覇者意識のもとの記念碑です。当時の晴れがましさを実感するのはむずかしいところを、美しい枕詞〈あかねさす〉が伝説化して見せてくれます。

中盤は加藤さんが得意とする悪夢の描写で、〈貼りつく〉という不自然な状態は砲弾の異物感を増します。これが写真の巨大な砲弾なら、神の指が砲身と化しているような。

神にもままならぬ戦という悪夢から覚めたあとなら、戦を真に美しい伝説として語れるでしょう。

覚めたあとなら。