今井恵子


戦争を知らぬ世代が老いてゆく不安なタンポポ空ばかり見て

石井雅子(2015年・出町柳編集室)

 

野原はいちめんタンポポの花盛りである。何処にでも咲く平凡な花ながら、タンポポは根強い人気がある。明るくて強くて健気に感じられる。しかし、この歌のタンポポは違う。不安なのである。ちょっと意表を突かれる。

 

上句と重ねて見ると、タンポポは、戦争を知らぬ世代の老いの暗喩と読める。軟弱を揶揄するように「戦争を知らない世代」と言われたとしても、70年続いた平和を考えれば、それは目出度いことであるはずなのに、今や老人となった世代は「空ばかり見て」空虚である。右肩上がりの日本経済に煽られながら激しい競争に人生の大半を過ごしてきた世代の「不安」である。

 

オリベッティ・タイプライター打つやうに玉蜀黍を端から食べる

 

タンポポの暗喩をみてもわかるが、作者はイメージを膨らませるのが上手く、ひらめくアイデアを掬いとり鮮やかに画像を作り出す。くっきりとしたイメージが印象に残る。「戦争を知らない世代」は、タイプライターの感触を知っている世代でもある。

 

国道の歩道橋に登るより死ぬはうが楽と老い父は言ひき

廂から垂れ下がりたる女郎蜘蛛逆さまのままで年を越したり

 

このようなシニカルな着想もある。