五年後はプラスチックを使はないハッピーセット寂しくないよ

山木礼子「春の尾」『短歌研究』,2022.05

 

今朝見かけた新聞記事たち。

【SDGs達成度ランキング】日本、2022年は19位にダウン 6目標に「深刻な課題」

おもちゃ プラ削減進む

 

これらを目にして、思い出したのが『短歌研究』5月号の山木礼子氏の作品でした。

この連作を読んだとき、すごくスッとした、そしてホッとした。けれど、その清涼感と安心感に飲み込まれぬよう、自分の意思で言葉に立ち止まる必要があった。それほどにこの語り手は、”かたり”がとても巧みだと感じたからです。

 

才能のある若い女が疎まれる けれど腕環よ黄金きんよあなたに

 

連作の一首目。語りかけたい、凛とした美しい、身に着けられる何かを「あなた」に差し出したい、「あなたに」と言いたい、という語り手の気持ちは、痛いほどわかる、と思ってしまう。

同じ作者の次の歌、

 

子を持ちても歌会へ通ふ日々をもつ男性歌人をふかく憎みつ/『太陽の横』

 

これらの語り手には物怖じせず、さっぱりとした、けれど深いつめたい怒りがある。

「黙らない」という、パフォーマティヴな、芯の通った強い意志が言葉に作用して、それぞれの色んな立場にある〈わたしたち〉に語りかけてくるのです。

 

さて今日とりあげた歌。新聞でも報じられているように、今、当たり前のように見かけているプラスチックのおもちゃたちも、数年後には姿を見せなくなるらしい。それはそれで、なんだか寂しい気もする。

ところでこの語り手の「寂しくないよ」は、いったい誰に向かって言っているのだろう。

「ハッピーセット」を注文するような幼い子に、あるいは母なる存在として世界に、と書いて、母なる?と首をかしげる。

「母」という存在に、身勝手に、包容力や優しさや慈しみの視線を投影させている自分にハッとする。

 

ここにあるのはもうすぐ消失する「プラスチック」製のおもちゃ。そうでなくとも、きっと溶け去るさだめにあるおまけのおもちゃだ。だからと言って、しんみりしようとしてみなくていいのだよ。

 

ここには「母なる」ものとは全く異質の、あたたかくて強かなかたりがあるのみ。そのことが、不思議と何故だか心強くて。

 

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