佐々木千代 『菜の花いろ』(青磁社 2008年)
「おばあちゃん、何歳になったの?」と聞かれての答えが、冒頭の「百歳」なのだろう。それを、「内緒ばなしのやうに」伝えるところがなんともチャーミングである。
こっそりと伝えるのは、大きな声では言えない、何か、気恥ずかしいところがあるからで、それは、年齢については、はっきり言うのがはばかられる、もっと言えば、なるべく若く見られるように曖昧にしておきたいという気持ちと通じているだろうか。そういう感覚が、百歳になってまで存在しているところも微笑ましい。
一方、「十本の指をひろげて」というところに着目すると、そうは言っても、明確に百歳ということを伝えようとしている。冒頭の「百歳」を引き出した質問としては、「おばあちゃんの夢は?」などという質問も考えられるかもしれない。たとえば、今、九十七歳の「祖母」に、「おばあちゃんの夢は?」と聞いたとき、照れながら「百歳」と表明する。百歳が目標なんだよ。そういうシーンも考えられる。
平均寿命はどんどん延びてきたけれど、この「祖母」が生まれた頃 たとえば、西暦1900年の日本の平均寿命は四十四歳だった。
まさか、百歳まで生きるなんて。
思いもかけないことを自らが達成しようとしている、そんな含羞の一場面かもしれない。