佐藤 通雅『岸辺』 (角川書店 2022年)
一生のうち、二人に一人が「がん」に罹る、それだけ身近な病気なのだとよく言われるが、だからと言って、そうだと診断されたときの衝撃が減じるわけではない。確実に「死」が頭をよぎる。
また、治療も容易いものではない。からだと心に大きな負担が掛かり続ける。たとえば、手術をして悪い部分を取ったとしても、それで終わりではない。何年にもわたり、治療や検査を受ける。再発の不安に怯えながら。
それでも、がんの受け止め方、向き合い方には、人によって実に大きな幅がある。
作者も、がんと診断された。その治療の過程で、「たたかふ」という感じではないな、という自分なりの感触を得たのだ。
むしろ、「星の子」 つまり、がんを、宇宙からの授かり物であるように感じている。
この時、自らのからだと宇宙は繋がっている。からだは、内なる宇宙、つまり、自分の力の及ばない大いなる世界なのである。元気なときは、それなりに掌握できる気がしていても、病を得てみれば、そんなものではなかったことがわかる。
そして、がんでは容易に「完治」という言葉を使わない。「寛解」 まずは見かけ上、抑えられている、そこまでしか、厳密には言えないのだ。
「なだめて空へ送り返したやう」には、そんな判断の状況が映っている。
それにしても、がんを「星の子」と見なすとは。もちろん、可愛らしいだけではなく、いつ暴れるかわからない、荒ぶるパワーを持っているものなのだろうけれど。
たたかう、のではなく。その存在を受け止め、かすかに愛おしく思い、なだめながら。
行き着いた、ひとつの境地である。