『レクエルド』岩田正
冬の代表的な鉢花であるシクラメンは、そのあでやかさと長く咲きつづけることから愛され、また花の贈り物としても重宝にやり取りされる。近頃は地植えのものもあるが、この歌では「隣室に置き」とあるので鉢植えの花だ。作者は「ものを書き」ながら、しばしば花のことが気にかかっている。寂しいのは「隣室」に離れているからだろう。「すこし寂しく花を思ひて」という言葉が、なにやら意味ありげにも見える。
とすれば、このシクラメンはおそらく若い女性の化身であろう。「隣室」という近くに居ながらたやすく近づくことは出来ない。そこに永遠に近い距離を感じているのは、作者が「もの書き」ゆえか、老年ゆえか。「すこし寂しく花を思ひて」という言葉の「すこし寂しく」が絶妙な陰翳を含んでいる。シクラメンの鉢植えが女性からの贈り物だとすれば、なおさらのことだ。洒落た老年の恋歌である。