となりにてざらりざらりと節分の鬼やらひ豆を炙る鍋の音

『鷺・鵜』太田水穂

隣の部屋で節分の豆を炙る音がしている。今はスーパーマーケットでたやすく買える節分の煎り豆だが、以前は家々で大豆を煎ったものだった。この歌に目が止まった時、火鉢の上で豆を煎っている音や匂いがふと蘇った。鍋でころがしながら煎るので大きな音がするのだ。まさしく「ざらりざらり」である。この耳障りな言葉の質感が、「鬼やらひ」というより「鬼」そのものを呼び起こすような気配があって面白い。
『鷺・鵜』の出版は昭和八年。この頃は家という観念もしっかりとあり、家族の人数も多く、節季ごとの行事も暮らしに根づいていただろう。節分の豆は一家の男が撒くものであった。豆撒きが終われば立春。「ざらりざらり」は春の近づく音でもある。一九三三年刊行。

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