エルニーニョのりもの酔いの語感あり神のゆめみるはるかなる沖

 『泡宇宙の蛙』渡辺松男

 二〇二三年は記録的な暑熱の年であった。とくに夏の長期にわたる暑さは、二酸化炭素ガスの排出による地球温暖化と、エルニーニョ現象とが重なった危機的異常気象を思わせた。

エルニーニョ現象は、南米ペルー沖の海面水温が二、三月頃に高くなることによって起こるという。この歌ではまずその名の不思議な語感に着目し、それを「のりもの酔い」というわかりやすい言葉に置き換えてみせた。そのうえでさらに「はるかなる沖」で「神のゆめみる」現象ととらえ直す。たしかに人知の及ばない気象現象は「神」の仕業と思うしかないが、

「のりもの酔い」から壮大な「神」の時空への転調が鮮やかだ。もちろん、この「神のゆめみるはるかなる沖」という言葉にも、なにか眩暈を誘うような音感があることが面白い。

一九九九年刊行。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です