風落ちたやうなしづけさ 大いなる鳴子のこけしがよこたはるのみ

『晴れ・風あり』花山多佳子

 静けさの中に、ただ一つ大きな鳴子のこけしが転がっている。それを伝えているだけなのに、不吉な気配が充ちているのは何故なのだろう。歌は二〇一一年三月一一日の東北大震災直後の作者の家の情景を詠んだものであろう。さいわいに被害は少なく、「大いなる鳴子のこけしがよこたわるのみ」であったという。それでも、不穏、不吉な感じは「風落ちたやうなしづけさ」をもって、作者の中にまぎれなく広がっている。

「大いなる鳴子のこけし」の「大いなる」という形容も、横たわった「こけし」以上の生々しさを作者が感じとっているからに違いない。もしかしたら「よこたはる」のは「こけし」ではなく、「わたし」であった可能性もあるからだ。大震災より十三年目である。当時をふくめて毎年多くの歌人に歌い継がれている震災であるが、わたしにはなおこの一首の記憶が鮮烈に残っている。二〇一六年刊行。

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