三月はいつ目覚めても風が吹き原罪という言葉浮かび来

『逆光』さいとうなおこ

 日本の三月初めは風の強い日が多い。だがこの一首の「いつ目覚めても風が吹き」という言葉には、たんなる気象状態をこえた虚無感のようなものが漂っている。そしてそれが「原罪」という言葉と結びつくと、日常感とは違う心の在り方が浮かび上がる。

「原罪」とは信仰にかかわりのない者にはあまり縁のない言葉だ。キリスト教ではアダムとイブによる人類最初の罪を意味する。だが、作者がここで自身に問うているのは、「原罪」ではなく「原罪という言葉」なのである。「いつ目覚めても風が吹」いているということは、作者の中では目覚めると同時に何か「言葉」が揺らぎだすということであろう。歌から伝ってくる硬い、敬虔な表情に心を打たれる。三月という風の季節が呼び起こした「原罪」という言葉の緊張感が忘れがたいのである。二〇〇八年刊行。

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