近づけば莢豌豆のハウスから雲雀飛び出しわれ囀れり

『雨たたす村落』小黒世茂

 ハウスの中で莢豌豆がつくられている。作者はそこを通りがかったのだろう。ハウスに近づいたとたん雲雀が飛び出したという。吃驚仰天して、思わず雲雀のような声が出た、ということだろうか。場面を説明してみれば何の不思議もないことになりそうだ。いや、納得できるような解釈をしてしまうと、歌の面白さもなくなってしまうだろう。この歌の輝きは、「ハウスから雲雀飛び出しわれ囀れり」という異変がもたらした明るい可笑しさにあることはまちがいない。

小黒世茂といえば自身の身体をもって熊野を踏破し、熊野を歌いつづける貴重な存在である。この一首も旅の途中のできごとであるらしい。いわば、身の体験をもってしか生まれえない一瞬の輝きを、熊野という巨大なエネルギーが潜む村落の一つ一つに見出だしているということだろう。熊野であれば、「ハウスから雲雀飛び出す」ことも、「われ囀れり」にも、いっこう不思議はないのである。二〇〇八年刊行。

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