男をも灰の中より拾ひつるくぎのたぐひに思ひなすこと

『春泥集』与謝野晶子

 男を「灰の中より拾ひつる釘のたぐひ」と思おうと言う。かつてこの歌に出会った時、「釘のたぐひ」という謎めいた比喩を前にしてしばらく呆然とした。灰の中から釘を拾った経験はわたしにもある。以前はよく庭先で、不要になった木箱など燃すことがあったからだ。だがそれにしても、その焼け釘に寄せる感情が、「男」に対しての怨みなのか諦めなのか、それとも愛しさなのかが判然としない。わからない故に忘れがたいともいえる。

この一首、表現は散文的で、小説が書く男女関係を想像させるところがある。結句の「思ひなすこと」という言葉にも、自分の恋着を切り捨てるような、あるいは男を見切るような強さが見える。当時、与謝野鉄幹を中にした晶子と山川登美子との三つ巴の恋愛は、いわば世間公開の事実であった。そしてそれは鉄幹と晶子が結婚した後も収まることがなかった。むろん晶子のこの歌はそのことを知った上でのものである。拾い上げた「釘」にはまだ温みがあったのだろうか。

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