エボラ熱隕石のごと降り来たり村人は死に菌も死にたり

 三宅徹夫『クレオパトラの夢』(2015年)

 

エボラ出血熱は、ウイルス性の急性感染症だ。致死率が高く、2013年末から大流行が始まった西アフリカの各国では深刻な被害が出た。今年5月9日に世界保健機関(WHO)がリベリアにおける流行の終息宣言をし、一段落したばかりである。

この歌が作られたのは、まだ各国で流行が続いている時期だ。作者がかつてガーナで4年間、働いていたことを知ると、アフリカの地への心寄せが一層、胸に迫る。歌集のあとがきには、ガーナへ赴任して間もないころ、ある人に「一度アフリカの水を飲んだ者は、再び戻ってくるものなのだ」と言われたエピソードが書かれている。

だいたい疫病というものは思いがけなく降りかかってくるものなのだろう。「隕石のごと」という達観は、非常に本質を突いている。

エボラ出血熱はウイルス性のものなので、「菌」というのは正しくないのだが、まあ、病原体を指す広義のことばとして許容したい。ウイルスは単独では増殖できず、他の生物の細胞に感染することで自己を増やすことができる。ウイルスに感染した細胞は死滅するが、宿主となった個体が死んでしまったら、元も子もない。下の句の「村人は死に菌も死にたり」は、その元も子もない状況を指しており、「菌」のやつ、愚かだなあ、死に至らしめたらだめじゃないか、という思いが籠められている(ああ、結句が「ウイルスも死ぬ」になっていたら、もっとよかったのに!)。ストレートに「村人」への同情を表現するのでなく、罹患者も病原体も等しく生物であるという見方が光る。