一枚の葉書をかいてポストまで 大きな春があとついて来る

岡部桂一郎『一点鐘』(2002年)

 

この頃は、ちょっとした用事にはメールを使うことが多くなった。
葉書をかく人は、今、そう多くはないかもしれない。

 

お礼状だろうか、それとも特に用とてないご機嫌伺いなのか。
とにかく一枚書いた。その気分でポストまで歩くのは悪くない。こういう時、人はゆっくり歩く。そのうしろからゆっくり春もついてくる。

 

・おおい おおい何処かで人が呼んでいる戸を開け出れば月の大きさ

この作者の描く自然は大きい。
それが文字通り、読む者の胸に大きくゆたかに入ってくる。大きい、と書いてその大きさをそっくり伝えるのは、実はとてもむずかしい。

どこに秘密があるんだろう。
ゆったりとした声調、どこかユーモラスな作風……。

 

あとがきに、本歌集について、「文字通りぽつんと鳴った鐘の音で、その他に意味はない」とある。
その他に意味はない、この心が自然と和するのだろう。

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