薄明のままに明けない日のやうに卵の殻のやはらかな白

紺野万里『星状六花』(2008年)

 

 

「薄明のままに明けない日」、空はうっすらと明るくなってきているのに、太陽はのぼってこない日。目の前にある卵の色から、そんな空、そのまま日の出を迎えない日が連想されている。

生き物が産み出した卵の色から、こういう大きな時空へ思いをひろげるところが魅力であり、そしてそれゆえ、ぬくみを保ちながらも、人間の範囲を超えるような、茫洋と沈んだ思いを感じさせる。

このような空の感じで、ある日、世界は消滅するのだろうか、とふと思う。

 

この歌集の歌を中心に、さきごろ、作品に英語訳、ラトビア語訳を添えた本が出版された。

そこで、掲出歌の英語訳は次のようになっている。

 

like the dim light

before day dawns

is

the soft whiteness

of  this egg’s shell

 

短歌を他言語に訳した場合、一般的に、やはりそもそも不可能なのか、と感じざるをえない場合があるが、ここでは元の歌がもつものが、損なわれることなく、ソフトに細心に、さらには英語版自体がひとつの独立した詩として味わいうるものになっていることが嬉しい。

ラトビア語の方は、どう発音するのかもわからないが、そこに込められようとしていることを知った上で、見慣れない、文字の配列を追うのはまた豊かにたのしい。

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