ルーベンスの薔薇色の雲わが手には君の重たき上着が眠る

梅内美華子『若月祭』(1999年)

ルーベンスは人物や物の大きな動きを感じさせる作品を残した、バロック時代の画家。
『フランダースの犬』の主人公ネロが見たがった絵は、ルーベンスの『キリストの昇架』と『キリストの降架』だった。また、『三美神』に代表されるような豊満な女神の裸体なども描いた。
そんなことからも、「薔薇色の雲」もまた壮大で華麗な作品だと想像する。

美術館のなか、こいびとのジャケットを預かったままはぐれたのかもしれない。
そもそも美術館という場所は、皆がひとりになる場所。だから、はぐれるというより、おたがいにひとりの空間を楽しんでいるときともいえる。

ルーベンスの描いた迫力ある艶やかな曲線に、心身がかすかに熱くなる。
そしてわたしの腕のなかには、あなたのぬけがらのような、あなたの「上着」。
ひとりで「上着」を腕に抱きながら、あなたとのほどよい距離感を感じる。
あなたであって、あなたでない「上着」は、未来へのかすかな期待と信頼と不安の象徴として腕のなかで「眠る」。

そんなこいびとたちの機微が、「君の重たき上着が眠る」に、あざやかにあらわれているのだ。
こいびとは、近くにいてほしいときもあれば、遠くにいてほしいときもある。

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