松村 由利子


炊き出しの大鍋ぐらぐらぐりとぐらカステラケーキを焼くなら今だ

          山口文子『その言葉は減価償却されました』(2015年)

 

言葉は音や響きを伴い、その律動によって詩が生まれる。河野裕子が作歌について何度も「歌は頭から作らないといけない」と語っているのは、ある言葉が次の言葉を引き出す必然性をよくよく知っていたからだろう。「七・七」が先にできることもある私は、彼女の言葉を読んでいたく反省したものだ。

この歌の作者は、「炊き出しの大鍋」を見つめている。家にある鍋とは全く違う大きさに圧倒されているのだろうか。「大鍋」から「ぐらぐら」へは順当な流れだが、「ぐらぐら」から「ぐりとぐら」へ飛ぶのが楽しい。

絵本『ぐりとぐら』は、刊行されてから半世紀以上たったロングセラーである。物語のクライマックスは、野ねずみのぐりとぐらが、大きな鍋でカステラを焼きあげた場面だろう。おいしいものを作って食べるというプロセスは、昔も今も、子どもたちを惹きつけてやまない。

歌の作者は炊き出しの鍋の大きさから、自分が野ねずみにような小動物になった気分を味わったのだろうか。下の句の「四・四・四・三」というリズムは、通常であれば嫌われる単調さなのだが、この一首では「ぐらぐら」から導かれ、ぐりとぐらが調子よく足踏みしているような昂揚感、楽しさにつながっている。