松村 由利子


さし迫るやうに沸き立つ湯の底にことりことりと触れ合ふたまご

         柘植周子『月の陰翳』(2015年)

 

炊事は三度三度のことであるが、毎回それぞれに緊張する。ゆで卵ひとつ作るにも、ゆでる時間、冷やすタイミング、また卵の新しさや小さなひびを入れるか否か、などいくつかのポイントがある。黄身が真ん中に来るよう、菜箸でくるくるかき回す人もいるだろう。

この歌にも、そんな小さな「緊張」が感じられる。小鍋が沸騰してくると、卵と卵がふれ合って「ことりことり」と音を立てる。ここからが肝心なのだ。私の好きなゆで卵は、鍋が沸騰してから、きっかり5分たって冷やしたものである。ハードボイルドは、あまり好みではない。

ゆで卵など料理でない、という人もいるかもしれないが、こういうものを疎かにして美味しいものは作れない。「さし迫る」という緊張感、また「ことりことり」という音に耳を澄ます作者の気持ちが美しい。

あるいは、「ことりことり」と触れあっている卵に、人と人との関係を思った作者だろうか。卵のようなこわれやすいものを抱えて、人は日々誰かと触れ合っている。