かわやつめ脛はぎにとりつき血を吸うと夢みしゆうべ熱すこしあり

『香山滋全集』別巻(三一書房:1997年)

 香山滋は映画『ゴジラ』第1作と第2作の原作者と知られる、怪奇幻想の作家。古生物や今でいうUMAに造詣が深く、魚類をはじめ動物の飼育も好んだ。戦後になって小説「オラン・ペンデクの復讐」でデビューするまでは、大蔵省の官吏として働く傍らで省内の機関誌に短歌の投稿をはじめ、結社にも属して歌人として活動していた。このあたりの話は「ゴジラの源流に短歌あり」と題してwebサイト「短歌のピーナツ」に書かせてもらったことがあるので、気になる向きはそちらを参照されたい。
香山の歌には動物をうたったものが多く、これもその一つ。「かわやつめ」とは、川に生息しているヤツメウナギの一種のこと。ヤツメウナギはウナギと名こそついているが、ウナギよりももっと気味の悪い容姿をしている。それが人の素足にとりついて、血を吸っている。微熱ゆえの悪夢というわけではなく、香山好みの光景なのである。小説家としての香山の代表作『海鰻荘奇談』にはこのカワヤツメの仲間、古代より生きながらえてきた電気ウナギのハイドラーナ・エレクトリスが、美男美女を感電させて内蔵だけを食い荒らす完全犯罪の「凶器」として登場する。一首のなかで香山が熱っぽく夢見る「かわやつめ」も、いわばゴジラの陰惨な眷属のひとりである。この小説の続編には、のちに寺山修司が『ポケットに名言を』で引用するこんな台詞も登場する。「いのちをたもつのも、いのちをほろぼすのも、どちらもたのしいあそびだったら、ほろぼすほうをえらんだからって、どうしてそれがざいあくかしら?」……げに、陰惨にして耽美の世界。微熱とともに味わいたい。